麻痺側を放っておいてはいけない理由

麻痺や障害がある側を患側(かんそく)、ない側を健側(けんそく)と呼びます。例えば右側血管疾患においては左片麻痺が残る場合が多く、患側を早々と諦め、健側の訓練ばかりを行うと、麻痺側の運動機能はさらに低下してしまいます。例えば左手の指に麻痺が残った場合、右手ばかりに頼った生活となりますから、右手をコントロールする大脳の左半球の活動が高まり、右半球の活動を抑制します。右半球の活動が抑えられると、麻痺した左の手指はもちろんのこと、左の足や体幹の運動機能までもが制約を受けるようになります。手指の麻痺が肘や肩のこわばりへと拡大し、やがて坐位や歩行バランスにも影響を与えることもあります。芳しい機能回復が望めない場合でも麻痺側の運動を続けて欲しい理由はここにあります。

麻痺している部位こそマッサージしよう

脳梗塞等で手や足に麻痺を抱えた方にマッサージをしようとすると「この手(足)にマッサージをしても仕方ない」とおっしゃることがあります。そんな時私は「麻痺した部位こそマッサージですよ」とお答えしています。麻痺した部位は動かせないため筋肉が萎縮しています。このため筋ポンプ(筋肉の収縮で静脈血を還流させる)作用が低下し、血流が悪化。血管外に組織液が滞留します。いわゆるムクミですね。麻痺した部位は固く、冷たく、パンと張り詰めたようになり、老廃物の排出も滞っています。放っておくと、関節拘縮(関節が曲がらなくなる)、感覚障害(感覚の鈍化で感染や怪我のリスクが高まる)、しびれ(ムクミが神経を圧迫)といった二次障害が出てきます。自分で動かせない部位こそ他動的に動かす意義があるのです。

拘縮が生活に与える影響

拘縮は日常生活に大きな影響をもたらします。例えば手関節や肘関節に屈曲拘縮が発生すると、食事や着替えといった動作に不自由が生じますし、股関節や膝関節の屈曲拘縮や足関節の尖足拘縮は歩行を困難にし、移動が制限されます。日常生活の自立度が下がると、生活範囲が狭まり、身体活動の機会が減少せざるを得ません。拘縮によって皮膚同士が密着、多湿状態になると、清潔を保つことも難しくなります。股関節の動きに制約がある場合は介護による排泄処理に影響が出ます。頸部に著しい後屈が発生すると舌の動きが制限され、咀嚼から嚥下までの一連の運動が難しくなります。重篤な拘縮は日常生活において様々な不自由をもたらし、介護においてはその難易度を高めます。最期を見据えた上で早い段階での取組みを大切にしていきたいですね。

拘縮が身体機能に与える影響

不動だから拘縮になるのか、拘縮しているから不動になるのか、ニワトリと卵の関係です。いずれにせよ不動が長期化すれば身体機能にも影響が及びます。胸郭の動きは上肢の動きに連動していますから、上肢の重篤な拘縮は呼吸機能の低下につながります。下腿三頭筋の収縮と弛緩によって静脈血は心臓に送り返されます。拘縮から歩行や立位が難しくなると、静脈還流が阻害されます。重篤な拘縮による局所的な圧迫が発生した場合は、循環経路自体が影響を受けます。拘縮によって活動が低下し、不動の状態が長期化すれば、内臓の働きも悪くなります。頸部や体幹はバランス調節に重要な役割を果たしています。これらの部位での拘縮の発生は、姿勢保持を難しくし、歩行時の転倒や椅子からの転落などの危険性が高まります。拘縮による身体活動の低下や不動の長期化は慢性痛に発展することもあります。

関節の不動が皮膚に及ぼす変化

関節拘縮による不動は皮膚にも変化をもたらします。皮下組織の脂肪が委縮し、隙間を埋めるようにコラーゲンの病的な過剰増殖が認められるようになるのです。こうなると皮膚が肥厚し、柔軟性、伸縮性が失われます。また、拘縮によって隙間があるはずの身体部分が密着し、多湿になることから、清潔が保ちにくく、皮膚トラブルを起こしやすくなります。筋委縮、骨委縮、るい痩、皮膚の弱体化、身体部位の密着に伴う圧迫によって、褥瘡も発生しやすくなります。褥瘡は不動や圧迫によって生じる皮下組織の血流障害に起因していますから、骨格筋の他動運動などの拘縮対策と同時に、皮膚組織のケアも大切となります。

拘縮予防の必要性

膝が極端に曲がり、手が組めず、顎が上がって口が開いたままのお姿で臨終を迎えることは、人としての尊厳を守る観点から容認できるものではありません。関節の拘縮をご本人が望んでいないことは明らかな上、家族や介護にあたる人の心にも大きな苦痛を与えます。拘縮は日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼし、尊厳や生き甲斐を保った生活を難しくすることから、早い段階での意識的な対応が求められます。拘縮が重篤になると自分でからだを動かすことができなくなり、筋力が低下します。また、臥位では骨への重力負担が減少するため骨委縮も進行します。筋委縮が起こると筋繊維自体が細くなるため、全身的に痩せた状態となり、骨の突出が目立つようになります。骨格筋や皮下組織は外界に対するクッションの役割を担っていることから、こうしたるい痩の進行は外傷が生じやすい状態になることを意味します。

最後まで生き甲斐を感じて生きる

加齢や病気の進行、それに付随する症状から自分で動くことがままならず、最期の時を迎えようとする方々の尊厳を守り、生き甲斐を感じて生きて頂くために、整えておくべき条件として、大田仁史氏は『終末期リハビリテーション』の中で次の諸点を掲げています。(1)清潔の保持、(2)不動による苦痛の解除(意識の有無に関係しない)、(3)不作為による廃用症候群(床ずれなど)の予防、(4)著しい関節拘縮の予防、(5)呼吸の安楽、(6)経口摂取の確保、(7)尊厳ある排泄手法の確保、(8)家族へのケア。たとえ重篤な疾患や運動障害があったとしても、清潔が保たれ、起床後は衣服を着替え、五感をフル稼働させて食事を味わい、時間があれば自分の好きなことをして過ごす、「当たり前の日常生活が送れること」が尊厳を守り、生き甲斐を感じる生活のベースとなります。例えば、好きな音楽や香りを居室内に流すといった個人の趣味や嗜好、価値観を生活に取り入れることも、生活の豊かさに結びつきます。アロマメディカはアロマの力で終末期医療にかかわっていくつもりです。

リンパ浮腫に対するアロマ

2008年4月から、乳がん、子宮がん、前立腺がんなどでのリンパ節郭清を伴う手術で入院した場合、医師や看護師、理学療法士によるリンパ浮腫についての指導が保険適用になりました。入院中1回指導を受けておけば、退院した月かその翌月にもう一回保険適用で指導が受けられます。退院後のリンパ浮腫発症に気づくのはご本人とそのご家族を置いて他にありません。日ごろからご自身のおからだを見て触ってよく観察しておくことをお勧めします。リンパ浮腫は全ての方が発症するとは限りません。発症した場合は弾性ストッキングなどでの圧迫療法を行うことになります(これも保険適用されました)。詳しくは、かかりつけ医、専門医にご相談ください。アロマの世界ではヘリクリサムがリンパ流促進効果で知られています。

タッチングの効用:脳内ホルモン

タッチングの効用には(1)オキシトシンの分泌がありました。また、ゲートコントロール理論に基づくと、タッチングによって(2)末梢からの入力情報を変化させるか、(3)上位中枢の活動を変化させることによって、不安や疼痛が緩和される可能性があります。タッチングは介護者、要介護者双方の信頼感や安心感を醸成し、コミュニケーションを活発にします。信頼感に基づいたタッチングは血流を増加させ、脳血管を支配する自律神経ニューロンに刺激が伝わると、アセチルコリン、セロトニン、βエンドルフィン等の神経伝達物質が増加します。これらは副交感神経系の脳内ホルモンとも呼ばれ、分泌が多くなると、脈拍低下、筋肉弛緩、血管拡張、血圧低下に代表される、リラックス状態になります。慢性的な痛みや不快感から不安が高まり、その不安が痛みをさらに増幅してしまっているようなケースでは、タッチングが助けになるでしょう。

タッチングの効用:ゲートコントロール理論

タッチングが安静・鎮痛効果をもたらすメカニズムには(1)オキシトシンの分泌の他に、(2)ゲートコントロール理論があります。痛みの信号はAδ繊維やC繊維を、触覚刺激はAβ繊維を通って脊髄に伝わりますが、そこにそれぞれのゲートがあり、強い刺激の方が弱い刺激の脳への伝達を抑制するという考え方です。Aβ繊維はAδ繊維やC繊維よりも太いことから触覚刺激が痛覚刺激よりも優位に伝わるとされました。この理論はその後数々の修正を経て、現在では痛みの信号を上位中枢に伝達する神経細胞は末梢、または上位中枢の様々な領域から下降性に影響を受け、それらの競合の結果として信号の入力量が決まると考えられています。つまり、末消から脊髄への刺激を変化させること(タッチング)、あるいは上位中枢の活動(感情や情動)を変化させることで、疼痛緩和の可能性があるということです。